10年に一度の希少な光景 ─ フロストフラワー|NPO法人 シュマリナイ湖ワールドセンター
2013 December

10年に一度の希少な光景 ─ フロストフラワー

  • 2013年
  • 自然現象

20131201

─雪は天から送られた手紙である─

夜になって風がなく気温が零下十五度位になった時に静かに降り出す雪は特に美しかった。
真暗なヴェランダに出て懐中電燈を空に向けて見ると、底なしの暗い空の奥から、数知れぬ白い粉が後から後からと無限に続いて落ちて来る。 それが大体きまった大きさの螺旋形を描きながら舞って来るのである。
そして大部分のものはキラキラと電燈の光に輝いて、結晶面の完全な発達を知らせてくれる。
何時までも舞い落ちて来る雪を仰いでいると、いつの間にか自分の身体が静かに空へ浮き上がって行くような錯覚が起きてくる。
中谷宇吉郎「冬の華/雪雑記」より

北海道大学で雪の研究を行っておられた中谷宇吉郎博士(1900~62)の言葉に 「雪は天から送られた手紙である」という有名な表現があります。 これからの季節、まさしくこの素敵な文章のような光景を朱鞠内では見ることができます。
とても素敵に表現されているなぁと思い、紹介させて頂きました。

宇宙空間にでも来たかのような光景

いよいよ雪の季節到来の月刊朱鞠内湖12月号は「フロストフラワー」についてです。

12月、朱鞠内湖周辺は深い深い雪に覆われ、深々と降り積もる雪、吹き付ける風、荒々しい自然の力に動物や釣り人の姿も少なく、 人々を寄せ付けない厳しい冬が始まります。

湖はぐんぐんと水温が下がり、表層水温が1℃を下回った頃、岸際から湖心部に向け氷が徐々に張りつめていきます。 水面(みなも)の姿が小さくなっていく光景を見ていると、これからの半年間キラキラと波打つ水面に逢えない、その寂しさを感じ、 春から晩秋にかけての楽しかった思い出が駆け巡ってきます。

湖が全面結氷すると、ここに暮らすスタッフたちは湖を眺めて「一年間お疲れさま。また春に逢おうね。」とお別れの思いでいっぱいになります。
この時期、釣りに訪れる方々からいただく「ありがとう」という言葉に、改めて我々スタッフも皆さんや湖に感謝し、冬眠に入るような気持ちになります。

12月の上旬、結氷が進むころ、最寒の地とも言われている朱鞠内は氷点下30℃を下回る時があります。
晴れた朝、風も無く、ダイヤモンドダストがキラキラと太陽に反射してまぶしく輝いているような日に、 ふと湖をのぞいてみると青光りした氷の一面に白鳥の羽のような物が一面に散らばっている光景に出逢うことがあります。

それはまるで宇宙空間にでも来たかのような光景 ──
平成18年、その光景をみたN氏はそう感じたといいます。

その光景はフロストフラワーと言われており、 薄氷の上に水蒸気が凍った結晶が付き、まるで花のような形に見える美しい自然現象です。
写真のような湖一面に広がる光景は、ここ朱鞠内湖では10年に一度見られるかといったような珍しいもので、めったには見ることができません。

フロストフラワーは天使の羽根?幸せになる?

フロストフラワー現象は放射冷却で冷えきった時、日常的に見られることがあります。 水たまりや、水の張ったバケツ、自然界では川岸で良く見かけられます。
スケールの大きいのは湖でしか見られませんが、屈斜路湖や阿寒湖、糠平湖などの雪の少ない地域ではよく見られるようです。

ただ、氷の薄い頃でないとこのフロストフラワーは発生しにくく、見られるチャンスは氷が5cm以下くらいの時、まさしく初結氷の頃がベストなタイミングのようです。 期間は長く続いても3~4日間、雪が降るとおしまい、氷点下20℃以下など様々な条件が揃わないと見られない希少な現象です。
朱鞠内湖は雪降りが多いので10年に一度くらいの確率しかないようですが、 12月の晴れた朝など、最低気温はずば抜けているので結晶体も大きく、一面に広がるフロストフラワーはロシアのバイカル湖などと同じくらいのスケールを感じることができるでしょう。
「天使の羽根」とも呼ばれるフロストフラワーを運良く見ることが出来れば、自然のもたらす大スケールの美しい姿に凍てつく寒さを忘れ、きっと幸せになれるはず。

朱鞠内湖の結氷の時期は、だいたい12月初旬~中旬にかけてで10日前後ぐらいのことが多いです。 残念ながら昨年(2012年)は天気が悪く、結氷と同時に雪が湖面にすぐに積もってしまったためにフロストフラワーは見られませんでした。

ちなみに道東方面の湖の氷は雪があまり降らないためにどんどん下に成長し、大きくなっていくのですが、 朱鞠内湖は上に雪が積もっていくため、下は密封のような状態になってしまい、 氷は下には成長せずに積もった雪の上にまた氷の層が出来てどんどん上に成長していくのが特徴です。

こちらはフロストフラワーではありませんが、2011年の結氷直前の様子です。 ところどころにある凍っていない水面に青空が映り込んでいます。

こちらは結氷した氷がまるで天の川のようにも見えます。

天候等の条件で湖の表情は一変しますが、フロストフラワーのようにこの時期にここでしか見ることが出来ない景色に感動することは間違いないでしょう。 先に紹介した中谷博士曰く「天からの手紙」である雪の結晶も、気温が低いここ朱鞠内では非常に良い状態で観察できます。 ぜひ一度、この時期の朱鞠内湖を訪れてみてはいかがでしょうか。